2025/04/13  
Fidelio X3のバランス変換ケーブルの話

PHILIPS Fidelio X3のバランス変換ケーブル

Fidelio X3にはバランスケーブルが付いていたので、試そうと思っていたのだが、fidelio X3のバランスケーブルはなぜか2.5mm4極。なので4.4mm5極→2.5mm4極アダプターケーブルを作ることにした。
アンバランスと比較することが目的なので、バランスケーブルのプラグを4.4mm5極に変更すればイーブンな比較になるのだが、個人的には製品は極力オリジナルの状態で残しておきたいので、変換ケーブルを作成することにした。



ケーブルの構成はアンバランスとの比較が目的でもあるので、音質を最大限追求したものではなく、必要最小限の構成にする。
構成は以下

芯線:オヤイデ 精密導体102SSC撚り線 19/0.08 (PFA被覆)
構造:2芯/ch, (LRchのクロストークをキャンセルできる構造、ノンローテーション構造。)
プラグ:アリで買ってきたノーブランド品。

構造は、2芯/chの最小構成。音質を極端に上げるようなことはしないと言っても、何も工夫しないのもつまらないので、Lch,Rch間のクロストークをキャンセルできる配置にして、それを独自方式で編み込むことにした。信号がスムーズに伝っていけるよう、またLRchの等価性を考慮してノンローテーション構造とした。また方向性も事前にチェックして音が良いほうに合わせてある。



で、実際に4.4mm5極プラグにはんだ付けするのだが、正直難易度が高い。簡単そうに見えるのだが、実際にやると6.3mmのP-275Tや3.5mmのNTP3RCと比べてはるかに難しい。以前HD650のバランスケーブル作る時も苦戦したのだが、これはなんでかと言うと4.4mm5極のケーブル接続部の形状が悪いからだ。接点が円形でかつ幅が狭いので、こてを当てても点接触になるので熱伝導の効率が凄まじく悪い。熱伝導が悪い上に母材が結構大きく熱容量が大きいので、規定温度に上がるのにも時間が掛かり、その間にはんだが痛むという理屈だ。

4.4mm5極プラグのはんだ付けは何度かトライしてみたが、どうやったらうまくいくのかと言うと、セオリー通りやらないこと。セオリー通りやるとどうしても熱容量、熱伝導効率が不足する。端子の接触面積と使えるこて形状からこれは改善できない。
熱容量、熱伝導効率の不足は温度で補うしかないので、温度をセオリーより高くする。大体380℃くらいが良いだろう。


 今回はセオリー通りこて温度を360℃以上に上げないよう350℃ではんだ付けしたのだが、それであまりうまくいかなかったので4.4mm5極プラグではセオリー通りの条件ではどうやっても無理そうだなと言う結論に至った。。。という話なんだけど。
4.4mm5極プラグのはんだ付けは難易度が高いので、もうちょっと条件を詰めて別記事にでもしようかな。需要あるか分からんけど。

今回行った方法としては
母材にはあらかじめ予備はんだをしておく。これはプラグ接点をケーブル導体が覆う形になるので、プラグ接点とケーブル導体を同時に温めることが出来ないから。

 それから接点を確実にするために導体をワイヤーで押さえつけてはんだ付けしています。線が浮いてはんだを介した接続になるのが嫌なんだよね。。。撚線だとどうしてもそういう線が出てくる。
導体を押し付ける力は銅線にロッキングプライヤーを吊るして確保することにした。こうするとプラグ端子の予備はんだが溶けた時に、ワイヤーによって導体が端子に押し付けられる。
また、接点端子周りのプラスチックはすぐ溶けるので、こてが当たっても問題ないよう、テフロンシールで養生してから作業することにした。






はじめにプラグのねじ部分と外部接点にテフロンシールを巻いておきます。これは、こてが触れてしまうと、はんだがくっついて面倒なことになるので。予防措置です。



L+からはんだ付けするので、それ以外を養生して予備はんだ。



おっと、画像を取るのを忘れていた。L+は終了して、L-の予備はんだから。



予備はんだして・・・



導体を接点の上に乗せます。接点を確実にするために導体をワイヤーで押さえつけてはんだ付けします。ワイヤーはロッキングプライヤーを吊って押さえつけています。ワイヤーは銅線と並列になっているので、事前に方向性をチェックして管理しています。



L-のはんだ付け完了。



同じような感じで、L+,L-,R+,R-すべてはんだ付け。導体は伝送特性を考えてL+,L-とR+,R-をひとまとめにしています。



はんだ付け後、銅線を編んでいきます。構造はLRchのクロストークをキャンセルできる設計になっています。



銅線を編み込んだら、はんだ付け部にエポキシを塗り、ケースを被せます。



ケースを被せたら、穴からエポキシを充てんして、垂直に立てて24時間静置します。







次は2.5mmメスバランスプラグのはんだ付けですが、結びつける用の導体を用意。音質を上げるために、表面研磨しています。左が研磨後。表面の平滑度が上がると、色が薄く光る感じになるんだよね。 今回はMOGAMI 3082のシールド線を使ったのですが、方向性の管理があまりに面倒なので、ボビン巻きの導体使った方が良さそう。



2.5mmメスバランスプラグのはんだ付け。導体をワイヤーで結びつけてはんだ付け。これが難しい。ワイヤーをきつく締めすぎると、接点端子から外れるし、そもそも数ミリしかないのでワイヤーが僅かにズレただけで外れてしまう。接点に穴をあけるなど何らかの対処をしておくべきだった。これなら普通にくっつけたほうがはるかに楽。



全ての端子にはんだ付け。



4.4mmの時と同様、はんだ付け部にエポキシを塗り、ケースを被せます。



隙間がある感じだったので、端子の内部にエポキシが流れてこないよう横にして静置します。たぶんいきなり縦にしても問題ないだろうけど念のため。



1回目のエポキシが固まったら、縦にしてケースの穴にエポキシを充填して静置します。



エポキシが固まったら完成。



せっかくだから名前でも考えておこうかな。。。美橋と名付けておこう。







ここまでやったら完璧な仕上がりになるだろう。。。と思ったのだが、70点くらいの出来かな。結構反省点がある。
4.4mm5極プラグは母材への熱伝導が十分でなかった。はんだが接点から遠くまで広がってないから、導体とプラグの設置してない部分は、浮いてしまって、芋ハンっぽく見えてしまう。銅線との接点部分はハンダを事前に濡らして合金層を作って、銅線との接触も完璧にしてあるので接続上は問題ないはずなのだが、母材に熱がもっと入っていたらもっときれいな仕上がりになったと思う。やはりはんだこて温度が350℃では熱量が不足する感じ。一旦380℃まで上げて母材に当てて350℃付近に下がってからはんだを当てるというのが良いだろう。あと流れを良くするため事前にフラックスを母材に塗っておこう。または、いっそのことこて温度は380℃くらいの固定でフラックスの蒸発を見越してフラックスマシマシではんだ付けするのも良いかもしれない。

2.5mm4極のはんだ付けだが、プラグの接点とケーブル導体を銅線で結ぶ方法を取ったが、接点端子が2mmくらいしかないので難易度が極めて高かった。うまく結べても接点端子が2mmしかないからちょっと力入れて結んでいる銅線がずれると外れてしまう。こういう小さな接点の場合、事前にプラグの接点に穴をあけるとか切り欠きを入れておかないとうまく結べないだろう。穴も切り欠きも入れられない場合はどうするか?その場合は諦めて普通の方法ではんだ付けしよう。



この美橋ケーブル作るのにエポキシの硬化時間を入れて4日以上かかっている。まぁエポキシの待ち時間が長いのだが、プラグに事前に養生したりかなりの時間をかけてしまった。正直変換プラグを数千円で買った方が安上がりだなと思います。でも工場ではこんなに丁寧には作業できないし、これは工業製品ではなく工芸品、一つの作品みたいなものだから、ここまで丁寧に仕上げるのが良いだろう。オーディオではこういう細かい違いまできちんと音に出るからね。このケーブルは音にあまりこだわらないと言って、2芯/chの制約を課したのだが、それでもその範囲内で音質が落ちないよう細部にこだわってしまった。「2芯/chだけど良い音が出そうだな」と思うのだが、果たしてどうだろうか。皆さんは2芯/chだと良い音が出ないと思いますか?


で、美橋の音質。エポキシが固まって音質が安定するまで、15日以上かかるので、それ以降の印象ですが、 比較するケーブルがないのでどの程度の位置付けか正確には言えませんが、
付属のアンバランスとバランスケーブル+4.4mm5極→2.5mm4極アダプターケーブルとの比較で、idsd diabloで聴いてみたが、
バランスの場合は、クリアネスは若干改善するが、声の情感など若干失われて、いわゆる音色が悪くなった感じする。クリアネスもバランスだからと大幅に上がるという感じではないし、エージングが適正に行われた状態では、以前ほど解像度差は感じない。バランスは音色が抑圧されている感じがどうしても出る。アンバランスの方が空間の見通しが良く、音色が美しい。今回作った変換ケーブルは結構良いものだと思いますが、良いケーブルをかましても倍の部品を通ってきているという事実は覆らないようだ。解像度や定位という観点で言うとバランスが良いというのは分かるが、音色で言うとアンバランスのほうが良い。
結局トレードオフがあるので、私ならアンバランスの方がやっぱりいいかなと思う。

結論としては正確な比較はできないのでおそらくだけど、このケーブルを継ぎ足したからと言って劇的に音質を向上させるような効果はない感じ。以前HD650のバランスを試した時の印象からの予想と大して変わらない結果になった。ケーブルの高音質化処理もしていないし、ケーブルの構造から言っても、劇的に向上させるような構造にはしていないからこれも予想の範囲内。まぁ、予想よりも悪くなってないだけ良いとも言えるんだけど。
継ぎ足したからと言って劇的に音質が良くなるわけではないが、悪くもならないという感じでしょうか。当初の目論見通りですが、エポキシが完全硬化したら、バランス接続の方が音が良くなるかな?とちょっと期待していたのですが、アンバランスとバランスの音質差は思った以上に大きいようです。